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農薬製品のマーケティングは「売れる状態」と「選ばれる動き」に分けて考える

農薬製品のマーケティング設計 ― 「売れる状態」と「選ばれる動き」を分けて考える

広告を出せば反応はあり、問い合わせも来る。展示会のブースにも人は集まる。それでも、売上につながっている実感がない。

農薬メーカーの宣伝・マーケティング担当の方から、よく聞く悩みです。

この悩みを整理するときは、まず「その施策は、売上に必要な条件のどれを動かすためのものか」を確かめます。施策ごとの狙いが決まっていないと、反応の数字が良くても、どこで売上につながっていないのかが分かりません。

この記事では、農薬の販促を7つの条件に分けて整理する考え方を、図を使って説明します。自社の施策がどの条件を動かしているか、どこが手薄かを確かめる材料にしてください。

出荷数量が伸びない市場では、今ある製品の届け方が売上を左右する

国内の農薬出荷金額は、2025農薬年度で3,853億円。前年比5.5%増の確定値です(クロップライフジャパン公表・2026年1月)。ただし出荷数量は前年並みで、金額を押し上げたのは製造コスト上昇に伴う価格改定と防除需要の増加です。数量で見れば減少傾向が続いてきた市場なので、金額の伸びをそのまま需要の拡大と読むことはできません。

新しい有効成分の開発費も上がっています。業界の国際団体が委託した2026年5月公表の調査では、新しい有効成分を主要市場に出すまでの費用は平均3億700万ドル、最初の合成から発売までは平均11.4年でした(AgbioInvestor、2020〜2023年の調査)。

農家さんの側も変わりました。2025年農林業センサス(確定値)では、農業経営体は83万6千と5年で22.3%減った一方、1経営体あたりの経営耕地は3.6haに広がり、法人経営体は10.1%増えています。

買い手の数は減り、1件あたりの規模は大きくなり、購入を組織で判断する経営も増えています。

新製品を次々に出せない以上、売上を伸ばす余地は、今ある製品を売れる地域と作物に確実に届けるところにあります。

農薬の販売には、4つの決まった仕組みがある

一般消費財の販促の進め方を農薬にそのまま当てはめても、うまくいかないことがあります。農薬の販売には、次の4つの仕組みがあるためです。

仕組み 何が起きるか
1. 登録制度 農薬は国の登録なしに売れない。作物・病害虫・使用時期・回数まで適用表で決まっている。販売できる範囲も、広告で説明できる範囲も、登録内容(ラベルの記載)が上限になる。適用のない作物に向けて広告を出しても、売上にはならない
2. 二本立ての流通 計画で動く系統(全農・県本部→JA)と、市場で動く商系(卸→小売店)。同じ製品でも、系統では防除暦と予約、商系では店頭の品ぞろえと在庫が販売を左右する
3. 推奨の連鎖 農薬で失敗すると一作分の収入に関わる。そのため農家さんは、自分で決める前に、防除暦、営農指導員、販売店、地域の先輩農家といった信頼できる人の推奨を確かめる。この人たちに情報が届いていないと、農家さん向けの広告だけでは選ばれにくい
4. 需要の時期 需要は作期と病害虫の発生に集中する。しかも大部分は、前年の秋冬に防除暦と予約で決まる計画需要。病害虫が出てから生まれる突発的な需要とは、動く時期が違う

ただ、違うのは販売の仕組みです。農家さんが製品を選ぶときの考え方は、ほかの買い物と大きくは変わりません。

困りごとが起きたら解決策を探し、スマホで検索して比べ、信頼する人の意見を聞いて決めます。使って良かったものは、次も名前を指定して買います。

そのため、検索広告、LP、アクセス解析といった一般的な手法は、農薬でも使えます。違うのは、使う時期と、誰に向けるかです。この記事では、4つの仕組みに合わせて施策をどう配置するかを整理します。

売上に必要な条件を7つに分けて考える

農薬の販促は、売上に必要な条件を7つに分けると整理しやすくなります。7つは、下段の3つと上段の4つに分かれます。

下段の3つは「売れる状態」です。使える、勧められる、買える。主に営業と技術部門が整える条件です。

上段の4つは「選ばれる動き」です。知る、調べる、選ぶ、また使う。農家さんが購入に向かう順番で、主にマーケティング部門が働きかける条件です。

選ばれる動き:農家さんが購入に向かう順番(主にマーケが担う) 4 知る 困りごとと製品名が結びつく 5 調べる 検索し、効果と使い方に納得 6 選ぶ 店頭で指名する・取り寄せる 7 また使う 使って良ければ再購入と紹介に 下段が揃うと上段が進む 売れる状態:販売の前提になる条件(主に営業・技術が整える) 1 使える 登録・適用がその作物・地域に合う 2 勧められる 防除暦・指導員・店頭が推奨してくれる 3 買える 取扱いと在庫があり、欠品しない 売れる状態の3条件が1つでも欠けると購入まで進まない。7条件を営業・マーケ・技術で共有する

売上が伸びない理由を社内で話し合うときは、施策の話をする前に、7つのうちどこが欠けているかを確かめます。

適用が合っていないのに広告を増やしても(1の欠落)、防除暦に載っていないのに認知を取っても(2の欠落)、店に在庫がないのに指名を作っても(3の欠落)、売上にはなりません。

反対に、下段の3つが揃っていれば、4から7の流れを媒体と広告で後押しすることに集中できます。

当サイトの設計ガイドにある5フェーズ(認知→興味関心→情報収集→比較検討→購買意向)は、上段のうち「知る」「調べる」「選ぶ」を細かく分けたものです。「また使う」は5フェーズの後、翌年の購入につながる段階にあたります。農薬では、その前に下段3つの点検が必要になる点が、一般的なBtoBの販促と違うところです。

施策の時期は、相手が決める日から逆算する

7つの条件には、それぞれ「決める人」と「決まる日」があります。

秋に防除暦が改訂され、冬に予約が締め切られ、春に店頭の品ぞろえと在庫が決まります。夏は、病害虫が出てから農家さん本人が検索します。時期は作物と地域によって前後します。

秋冬春夏(発生期) 防除暦の改訂 決める人:指導員・JA 間に合わせる施策: 試験成績・技術資料 展示圃の結果 予約の締切 決める人:農家・JA 間に合わせる施策: 予約案内・事例チラシ 営業の商談 棚と在庫の確定 決める人:卸・販売店 間に合わせる施策: 需要データの提示 店頭資材の提案 発生時の検索 決める人:農家さん本人 間に合わせる施策: ラジオ・Web広告 LP・店頭ポスター プッシュ(売れる状態を整える) 数か月〜1年前から。登録・評価 → 防除暦 → 予約 → 配荷の順に、締切前に届ける プル(流れを動かす) 発生の直前から数週間に集中 収穫後:結果の評価 →「来年も使うか」が翌年の予約・防除暦へ戻る 判断日のあとに届いた施策は翌年まで生かせない。時期は相手の予定から逆算する

判断日ごとに施策・予算・指標を埋めた記入例(水稲用殺菌剤・架空の条件)を設計シートに載せています。自社の製品で考えるときの参考にしてください。

同じ内容の施策でも、相手が決めたあとに届いたのでは、その年の売上にはつながりにくくなります。

技術資料は秋の防除暦改訂に、予約企画は冬の締切に、需要データは春の棚割りに、広告とLPは夏の発生に間に合わせます。施策ごとに「どの判断日に間に合わせるか」を決めておくと、どれを先に進めるかを決めやすくなります。

もう一つ前提があります。登録前の農薬は広告宣伝ができません。農家向けの発信は登録取得が起点で、それより前に準備できるのは社内の評価データの整理と、流通向けの技術情報の整備までです。

施策は前後のつながりで見る

成果は、施策一つひとつの出来よりも、前後のつながりに左右されます。

ある病害虫の大発生が予想される年、発生予察情報が出た地域を例にします。

1|ラジオ・新聞 困りごとと名前を結ぶ 「今年は◯◯に注意」(4 知る) 2|検索 → LP 症状起点で答える 効果と使い方に納得(5 調べる) 3|データが動く 検索急増を営業へ 地域ごとの需要を伝える 4|営業がJA・店へ 品揃えと在庫を確保 「需要が動いています」(3 買える) 5|店頭で案内する 広告と同じ言葉で ポスター・チラシ(6 選ぶ) 6|指名・取寄せ 名前で買われる 取扱いのない店には取寄せ導線 7|使用後フォロー 成功を事例化 産地で共有(7 また使う) 8|翌年へ戻す 防除暦・予約の材料に 実績と事例が翌年の推奨につながる どれか1つが欠けると、そこから先に進まない。施策は前後のつながりで見る

この流れのなかで特に注目したいのは、3番目の「データが動く」です。

検索やLPへのアクセスは、売上より先に動くことが多い数字です。どの地域で、いつ、どんな困りごとが検索されたかは、広告の評価だけでなく、地域ごとの需要をつかむ手がかりになります。

このデータを営業に渡し、JAや販売店との商談の材料に使ってもらいます。マーケティングで得たデータが営業に渡らず、広告の報告だけで終わっているケースは少なくありません。

それぞれの施策は、どの条件を動かしているか

施策を見直すときは、この表で、どの施策も担っていない条件と、施策が重なっている条件を探します。

施策 1 使える 2 勧められる 3 買える 4 知る 5 調べる 6 選ぶ 7 また使う
新聞広告・ラジオCM — — — ● ○ — —
Web広告・SNS・動画 — — — ● ● ○ —
LP・製品サイト — — — — ● ○ —
チラシ・店頭ポスター — ○ — ○ ○ ● —
技術資料・試験成績・展示圃 ○ ● — — ○ — ○
営業活動(商談・予約・同行) — ● ● — — ○ ○
使用後フォロー・事例化 — ○ — — — — ●

●=主に動かす条件 ○=補助的に効く条件

表を埋めてみると、よくある思い込みが2つ見えてきます。

一つは、広告だけで6の「選ぶ」まで動かせるという期待です。広告が主に担うのは4「知る」と5「調べる」です。6「選ぶ」にも補助的には効きますが、店頭で最後に選ばれるかどうかは、広告と同じ言葉を使った店頭資材と、在庫があるかどうかに左右されます。

もう一つは、技術資料を営業の補助資料として扱うことです。技術資料は、2の「勧められる」に直接働きかけられる数少ない手段で、防除暦を作る側や営農指導員が判断に使います。それが営業車に積まれたまま、指導員の手元に届いていないケースもあります。秋の防除暦改訂に間に合わせたい資料の一つです。

JAの防除暦は、多くの県で、県がまとめる病害虫の防除指針(防除基準)や、試験場・普及指導センターでの評価をもとに作られます。新しい剤が載るには、その県での試験成績が求められることが多く、技術資料は、その検討の場に試験成績と使いどころを届けるためのものです。手順は県と作物で違います。

KPIは、量の数字だけで判断しない

最後に、効果の測り方です。

表示回数、クリック数、配布部数といった量の数字だけで施策を続けるかどうかを決めているなら、見直す余地があります。見たいのは、7つの条件の間を次へ進んだかどうかです。

転換 先に見える動き(先行指標) 結果が出る目安
知る → 調べる 指名検索数・LP閲覧 日〜週
調べる → 選ぶ 問い合わせ・店頭指名・取寄せ 週〜月
売れる状態(勧められる・買える) 技術面談・商談・予約打診 季節〜年(防除暦掲載・取扱店数・予約数)
選ぶ → また使う 使用後フォロー・事例化の数 作期〜翌年の予約

考え方は、当サイトで紹介している中間CVの設計(運用型広告のKPI設計と計測環境)と同じです。

農薬で加えたいのは、「防除暦に載ったか」「予約が入ったか」「取扱店が増えたか」といった下段の条件の数字です。これを広告の数字と同じ表に並べ、製品×作物×地域×時期の単位で週ごとに更新します。営業、マーケティング、技術の各部門が同じ表を見るようにします。

同じ表を見ていれば、会議は結果の報告だけで終わらず、次にどの条件に手を打つかを話し合えるようになります。何から始めるか迷ったら、この表づくりから取りかかると進めやすくなります。

製品・作物・地域ごとに指標と目標値を整理するには、Excel版の設計シートが使えます。目標値を関係者と合意する前に、稟議前の10項目チェックで抜けを確認してください。

広告表現の前提として、農薬の広告・LP・チラシはすべて登録内容(ラベルの記載)が上限になります。効能の断定表現(「確実に効く」等)や競合製品との比較表現は、農薬取締法・景品表示法に加えて、会員メーカーが遵守する業界団体の広告宣伝基準にも触れます。この基準は2026年4月に改訂され、SNS広告・動画広告やステルスマーケティング規制への対応が明文化されました。制作フローに登録内容との照合(校閲)を必ず組み込んでください。

まとめ

要点は次の4つです。

農薬の販売には、登録制度、二本立ての流通、推奨の連鎖、需要の時期という4つの仕組みがあります。一般的な販促の手法は、この仕組みに合わせて使います。

広告の前に「売れる状態」を点検します。使える、勧められる、買える、の3つが欠けていると、広告を増やしても売上にはつながりません。

施策の時期は、相手が決める日から逆算します。秋の防除暦、冬の予約、春の店頭、夏の発生が目安です。決まったあとに届いた施策は、その年の売上につながりにくくなります。

効果は量の数字だけでなく、次の条件へ進んだかどうかで見ます。検索やアクセスのデータは、営業が地域の需要をつかむ材料にもなります。

媒体ごとの特徴は農業メディア一覧と活用パターンガイドに、病害虫が出たときに検索する農家さんへ広告を届ける方法は運用型広告ガイドにまとめています。

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